さて、ついに中学時代からの憧れだった、東京の有名大学での学生生活がスタートした後藤さん。彼はまずテニスサークルに入り、キャンパスライフを満喫する。
「やっぱり、大学といえばサークル、サークルといえばテニスしかないですよね(笑)。まわりの女子大からも女の子がたくさん入ってくるから、飲み会も楽しいし、女の子の友達は激増しましたね。要するに、まさにドラマに出てくるような、念願の遊び放題の学生生活を送っていたわけです(笑)。大学時代は、僕にとっていちばんヒマな時期でした。でもそこで、運命の出会いをしてしまうんですよね、『エヴァンゲリオン』(アニメ『新世紀エヴァンゲリオン』)と」
運命の出会いなどと言葉にすると大げさに聞こえるのだが、なるほど、話を聞いてみると、後藤さんがそう呼ぶ理由もよくわかる。
「たまたま、授業にも行かずに1日中寝てた日があったんです。“やばい、夕方まで寝ちゃったよ”と思いながら、何気なくテレビをつけたら、主題歌の〈残酷な天使のテーゼ〉が流れてきたんです。しかも、タイミングがいいことに、たまたま観たその日が、初回放映の第1話。もともとがアニメ好きですから、しっかり最後まで観てしまい、“スゴいアニメが始まったな、これは!”とハマってしまった。それからは毎週欠かさず観るようになり、しかも最終回があんな終わり方で“いったいどうなってるんだ!”と(笑)。当時も、ネットを中心にファンが騒いでいましたが、僕もそのひとりでした。大学のサークル仲間や当時の彼女にも、僕はガンダムはおろか、アニメが好きだなんてことは、もちろんひと言も言ってませんでしたけどね(笑)。唯一ひとりだけ、カミングアウト済みの男友達がいまして、僕がそのとき『エヴァンゲリオン』に夢中になっていることを知っていたのは彼だけ。『エヴァンゲリオン』熱は、就職活動をするころまでずっと続きました」
ハマっていたのは『エヴァンゲリオン』だけではない。
「ゲームの趣味も、ずっと続けていましたね。高校時代に『スパロボEX』に出会い、第3次、第4次……と、続いていきました。当時いちばん好きな作品は、イデオンとエヴァンゲリオンが出てくる『スーパーロボット大戦F』と『〜F 完結編』でした。ガンダムゲームに関しても、大学時代にPSやセガサターンの時代がやって来てから、それまで以上に続々と発売されるようになり、またゲームへの熱が高まっていました。当然、『FF』(ファイナルファンタジー)も『ドラクエ』(ドラゴンクエスト)も『バイオ』(バイオハザード)も遊んではいたんですが、好き嫌いで言ったら、断然、キャラクター物が好きでした」
そんな学生生活を送りながら、後藤さんは就職活動の時期を迎える。アニメ、ゲームが根強い趣味として後藤さんの中にはずっとあったが、彼が思い描いていたのは「ちゃんとスーツを着て、夕方にはかわいい子供と奥さんの待つ家に帰るような、いたってふつうの営業マン」という人生設計だったという。ねらっていたのは、当然、お堅い企業。時代が新卒者にとって就職の“超氷河期”を迎えていたこともあり、戦略志向の強い彼は、会社四季報とにらめっこをしながら、車メーカーや重工系の企業などを目標に、リクルート活動にいそしんだ。
「ところが、就職活動をしているうちに、たまたまバンダイの会社説明会があることを知り、息抜き気分で行ってみたんです。自分としては、玩具メーカーに就職する気はまったくなかったんですが、軽い気持ちでエントリーシートを出したら、面接に来いという連絡が来ちゃったんですよね(笑)。面接では、ガンダムにまつわる話や商売にまつわる提案を思うがままにしゃべったり書いたりしてましたよ。関連会社を再編成したほうがいいとか……。ダテに商学部を出たわけじゃないですよ(笑)」
バンダイへのアプローチは、後藤さんにとっては“本気”ではなかったぶん、思うがままの自由な発言ができた。それがかえって功を奏したのか……。
「なぜかバンダイから内定が出てしまいましてね。そして、僕は同時に某大手自動車会社からも内定をもらったんですよ。当然、僕の会社選びの条件からいえば、そっちの方が最高の就職先でした。でも……待てよ、と。考えてみたら、僕は車のことがさっぱりわからないということに気づいてしまったんです(笑)。もし、車に全く興味のない自分が営業まわりをしても、上手くいくわけがない。だったら、クルマの何百倍も知識のあるウルトラマンやガンダムのオモチャを売ってまわったほうが、絶対マシだと思いました。思えば、子供時代にウルトラマンやガンダム、大学時代に『エヴァンゲリオン』にハマっていなかったら、バンダイという会社に興味を持つこともなかったでしょう。だから、この道を仕事にしてしまったのは、キャラクターのせいといってもいいですよね(笑)」
子供時代からの“三つ子の魂百まで”は、ここに結びつく。それまで理詰めで就職活動をしてきた後藤さんではあったのだが、最後の最後は、やはり自分の心の奥の声に従ったのだろう。
「中学でのヤンキースタイルも、進学校に進んだのも、大学選びも、出だしはすべてミーハー心で、その後理詰めで考えた行動をしているつもりですが……最後はツメが甘いというか、いつもいいかげんで(笑)。人間、形を整えても、やっぱり流れ着くところは自分の根っこの部分なんだなぁと思いますね」
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