一生懸命に出来る限りの努力をしたものの、河野さんが長年温めた企画は製品化への道をたどることはなかった。制作中は「プレゼンに通らなくてもいい」と思った河野さんではあったが、現実に戻るとさすがに気持ちは落ち込み、一時は会社を辞めようかという気持ちもうっすら浮かんだ。だが、よく面倒を見てくれていた会社の先輩、同期の仲間たちからの励ましの言葉を聞き、河野さんは気持ちを切り替えることができた。
「それから、しばらく実作業の現場を離れて、違う仕事をしていたんです。でも、ふと気がついたときに“それでいいのか?”という気持ちが浮かんで、ちょっと焦りを感じたんですよね。同期の連中は、それぞれのチームで新作に取り掛かっていたのに、僕は宙ぶらりんの状態でしたから。そんなとき、上司と一緒に電車で帰る日があって、気持ちを打ち明けたんですね。そうしたら、“今週は、会社に来なくてもいい。ゲームのことを考えずに、気分転換しろ”と言ってくれたんです。その言葉を聞いて、ふっと肩の力が抜けました。そんなに頑張り続けなくていいんだって。そこからです。僕が立ち直ったのは」
新たな意欲がふつふつと沸いてきた河野さんは、仕事にも積極的に取り組み出す。自分の企画を洗い直し、『サルアイトーイ 大騒ぎ!ウッキウキゲームてんこもりっ!!』のアシスタントプロデューサーに名乗りを上げた。そして……!!
「納期が厳しかった『サルアイトーイ』の開発がピークだった頃、電車の中でオリジナルゲームの企画が思いついたんです。それが『LocoRoco』。そこから、プライベートな時間で『LocoRoco』の企画を練り込んでいきました。ただ、いつ会社に企画を提出したらいいのか、タイミングが難しい時期だったんです。そこで、『サルアイトーイ』の作業がすべて終了してから、いつ社内のプレゼンにかけてもいいように、ひとりでこっそりデモをつくってしまおうと考えたんです。そんなとき、タイミングよく、社内で手の空いているプログラマーを見つけたんですね。しかも、その人は物理計算が得意だという。ロコロコの動きを表現するには、ぴったりの人だったんです。そして、思い切って彼に『LocoRoco』の企画を話してみたら、デモづくりを手伝ってくれるといい返事をもらって。そこでお願いしたら、たった1〜2週間で、物理計算デモをつくってくれました」
こうして、偶然にも力強い味方を得た河野さんは、早急に『LocoRoco』の企画を練り込んでいった。さらにタイミングよく、社内の制作チームでも、PSP®ソフト開発を積極的に推進する気運が盛り上がり出した。「ここがチャンス!」と思った河野さんは、上司にさっそく、『LocoRoco』の企画を提出した。
「直属の上司からは、とりあえずそれを進めてみろという返事をもらい、それから約2ヵ月くらいで、ほかのプロデューサー陣の前でプレゼンができるところまで話が進んでいきました。その間に、『レジェンド オブ ドラグーン』時代から仲の良かったデザイナーにも協力してもらって、企画を仕上げていったんです。で、実際のプレゼンになったんですが……まだそこではラフ画を見せながら、ゲームのイメージを口頭で説明するだけだったので、ロコロコというAIを搭載したキャラクターと物理計算によるシステムが、ゲーム性としてどう上手くかみ合うのかがわかり辛かったんでしょうね。1回目NGで、リベンジした2回目のプレゼンでも、あまりいい反応は返ってきませんでした(苦笑)」
そんな状況に、このままではいけないと発奮した河野さんは、さらに上司に直訴。実際に、『LocoRoco』が動いているところを見てもらわなければ、この企画の面白さは伝わらないと、PSP®のツール上でデモをつくる作業に取り組み出した。
「デモ制作に掛けられる時間は1ヵ月。そこからは必死でした。仮のステージをつくり、ギミックを配置して、地面を傾けるとロコロコが移動し、地面を弾くと飛び上がり、トゲに触ると分裂するシステムを入れたデモをつくりました。時間の都合で、肝心のロコロコのポヨヨンとしたやわらかさを表現するところまでは手がまわらなかったのですが、ゲームの概略をわかってもらえる内容で。それを再度、見てもらったら、プレゼンの席にいた全員の雰囲気が、前回とはガラッと変わったんです(笑)」
“百聞は一見にしかず”というのは、まさにこのこと。斬新なゲーム性と、独特の世界観を社内に納得させるまで時間はかなりかかったが、そこからはトントン拍子に話が進んだ。
「正式に開発のGOサインをもらい、本格的な試作にやっと取り組める環境ができたんです。試作は人も増えて3ヶ月で制作しました。」
このとき河野さんが考えていた『LocoRoco』のプロジェクト構想は、“少人数で時間をかけない、アイデア勝負のゲームづくり”。『LocoRoco』ならそれが可能だと考えた。
「それでも、会社のサポート体制に基づいて当初考えていたより人数はふくらみましたが、今のゲーム開発現場の状況を考えると、まだまだ少ない人数ですみました。時間とお金を掛けてじっくりとつくり込む大作ももちろん必要ですが、僕は短い時間で面白いアイデアをたくさん形にしていくことも、この業界には必要なことだと思ったんです。確かに、少人数で新しいことにチャレンジするゲームづくりには苦労しました。でも、発売後にはみなさんにも高く評価してもらえて、頑張った甲斐があったとホッとしましたね」
河野さんが子供の頃から抱いていたポリシー。それは「自分のつくったもので人を楽しませたい、驚かせたい」という純粋な気持ちだ。小学生の頃、友達に自作のゲームを遊んでもらった時代から、一環して河野さんは、自分が楽しいと思ったものを“誰か”と共有し、“誰か”を楽しませるための手間と、粘り強い努力を惜しまなかった。
「『LocoRoco』をつくっているときも心強かったのは、同期のみんなの協力でしたね。チームで一緒に仕事をした仲間はもちろん、営業部や宣伝部など、ほかの部署の同期の人たちが、みんな『LocoRoco』を応援してくれた。実は、『LocoRoco』というタイトルも、同期の友達が締め切りギリギリに考えてくれたものなんです。このゲームを企画したのは僕ですが、作品を仕上げることができたのは、けっして僕ひとりの力じゃない。そういう基本的なことが、『LocoRoco』を通じて再確認できました」
では、その河野さんが、次にみんなを驚かせてくれるのは、いったいどんなゲームだろうか。
「次ですか? 何か、海外のゲームショウではちょっとした発表もされているようなんですが……『LocoRoco』の続編となるタイトルは、企画が徐々に進んでいます。それに限らず、『LocoRoco』の開発中から、ほかの企画もたくさん思い浮かんでいて、もう僕の中ではイメージが見えてきています。今、市場ではカジュアルなタイトルが人気ですが、もっとゲーム性を高めた新しい内容の作品を実現できればと。例えば、やり込み要素は維持したまま、カジュアルでセンスのいいアクションRPGだとか。昔、僕が子供時代に夢中になったゲームは、けして大作ではなかったですが、面白いアイデアがたくさん詰め込まれていました。そういう要素を、現在の時代にマッチする形で実現できたら、少人数で面白いタイトルが開発可能じゃないかと思うんです。それぞれのアイデアはまだ準備にも取り掛かれていない状況ではありますけど、タイミングを見ながら進めていきたいですね」
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