今から500年後、巨匠の映画が忘れられてもゲームは残るかもしれない。それほどコンピュータゲームの現在は歴史的瞬間だと思うんです。
 イシイ ジロウ

チュンソフト入社〜『金八先生』から『忌火起草』へ

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 一時は映像作家を目指していたイシイさんは、何作かゲーム制作を手がけるうちに、いつしか「映画よりゲームのほうがすごい!」と思うようになっていた。同時に、ゲームの専業メーカーではない会社がゲームを作ろうと思っても、開発面でも販売面でもそこには自ずと限界がある、ということもわかった。ゲーム専業の会社で、映像作品を越えるゲーム作りに没頭したい。そこで次の転職先に選んだのが、現在、イシイさんが所属するチュンソフトだった。

「ゲーム専業の会社なら、どこでもいいというわけではありませんでした。僕自身が物語を作るにあたって、いちばんコストパフォーマンスの高いジャンルが、サウンドノベルだということに日経時代から気づいていたので、次に作るならサウンドノベル。チュンソフトのサウンドノベルは、それまでも遊んでいて抜群に面白かったですし、サウンドノベルを作るなら、いちばんのところに行こうと。それでチュンソフトを受けたんです」

 そして無事、チュンソフトに入社。当初、イシイさんは、『かまいたちの夜2 監獄島のわらべ唄』に続く、某サウンドノベルタイトルのディレクターになるはずだった。しかし、その企画がさまざまな事情で頓挫。自分で0から企画を立ち上げなくてはならなくなった。

『3年B組金八先生 伝説の教壇に立て!』の原型
『学校』のプレゼンテーション資料

「いくつか、別のサウンドノベルの企画を考えてはみたんですが、その中には“これだ!”というものがなかったんです。でも、以前からアイデアとして、学校を舞台にした先生のゲームが作りたいというのはありました。それを会社に提案したら、思いのほか受けがよかったので、ドラマ型の学校の先生ゲームを作ろうと決めたんです。その段階では『金八先生』を題材にするとは考えてはおらず、『金八先生』とか『ゆうひが丘の総理大臣』とか『スクール☆ウォーズ 〜泣き虫先生の7年戦争〜』とか、そういうドラマの面白さを全部出せる物語にしたいと。ただ、ゲストにぜひ金八先生本人を出したかったし、主題歌を〈贈る言葉〉にしたかったので、そこからはストレートに『3年B組金八先生 伝説の教壇に立て!』に結びついていきましたね」

 2001年前後からの企画発案から約3年後、チュンソフトでの監督作品第1弾となるPS2『3年B組金八先生 伝説の教壇に立て!』を完成させたイシイさんは、いよいよ念願のサウンドノベルの制作に乗り出すことになる。

「社長の中村(光一)から、“セガ×チュンプロジェクトを始めるんだけど、その中にサウンドノベルがある。『忌火起草』のディレクションをやってみないか?”と言われたんです。でも、僕はプロデューサーにしてくださいとお願いしました。理由は、新しいディレクターを育てたかったから。僕自身は、前の会社を含めて数本のディレクター歴がもうあるので、そのノウハウをプロデューサーとしていかしたいと思ったんです」

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『忌火起草』が掲げたふたつのポイント

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 イシイさんがプロデュースする『忌火起草』は、PLAYSTATION®3タイトルとしての注目度の高さはもちろん、『弟切草』以来、久々に登場する本格ホラーを題材にしたサウンドノベル最新作としての期待度も抜群に高い作品だ。

「チュンソフト開発のサウンドノベルとしては、最近は『かまいたちの夜』のミステリー路線がメインで動いていましたから、『弟切草』でやったホラーというのが、今まで置き去りにされてましたよね。映画やドラマではJホラーがこれだけ流行っていたのに、『弟切草』がそのままになっているのはもったいない。だからホラーをやりましょう、というのが『忌火起草』のスタートでした」

 何よりホラーであること。そしてもうひとつ、『忌火起草』を作るにあたって、絶対にハズせないポイントが、イシイさんにはあった。

「これはゲームシステムに関わることなんですが、うちのサウンドノベルはタイトルごとに物語の分岐システムが異なっていますよね。『かまいたちの夜』は、ひとつの正解の筋道からバッドエンドが枝分かれをしていく“ツリー形式”。『街』はザッピング。『弟切草』は、分岐がアミダくじをたどるように行ったり戻ったりする“アミダ形式”なんです。で、ツリー形式のほうは、『かまいたちの夜』において、これ以上はないという完成度にまで高まっていました。でも、アミダ形式のほうは、未だ手つかずで。『弟切草』の分岐システムは、まだ実験段階でした。プレイした方はおわかりでしょうが、ざっくり言ってしまうと、あのアミダ形式は話の繋がりに脈絡がなくて、結果的にかなり取っちらかっているんですよね。ただ、システムとしては、作るのも難しいですが非常に面白い。なので、『弟切草』ではまだ粗かった“アミダ形式”の分岐システムを、『忌火起草』ではより高い完成度で実現したかったんです」

 そして間もなく、10月25日に発売となる『忌火起草』。開発を終えた今、印象に残ったポイントをイシイさんに聞いてみると?

「ホラーとサウンドノベル。このふたつが合っているようで合っていないことで、苦労しました。ホラーって、ロジカルじゃないんですよ。ロジカルなホラーで成功した例は『リング』くらいでははいでしょうか。逆に、ロジカルなものをつぶしてこそホラーなんですね。例えば、目の前にふたつのドアがあって、右のドアを開けたら大丈夫で、左のドアを開けたら幽霊がいるということが、論理的にわかってしまうと全く怖くならない。一度ドアを開けて、幽霊がいなかったら、そっちが正解、みたいな展開はホラーにならない。論理的に正解が見つからないから怖さが増すんです。同じ意味で、話に謎解きが介入してくると、謎が明らかになるごとに、そこで起きる出来事の裏がわかるわけですから、怖さは減っていきますよね。今回、ホラー作家さんと組んでシナリオを作っていったんですが、作家さんが恐怖を追求すると全くロジカルにならない。でも、それを僕らが考えると、ロジカルになりすぎて怖くなくなる。そのバランスが、難しかったです」

 ところで、先ほどの“アミダ形式”の話。難しさでいえば、それを完成させるのも、さぞ難しい課題だったと思われるが?

「おかげさまで、できました。矛盾のないアミダ形式になりました。ゲーム的には、フラグの塊ですけどね(笑)。チュンソフトのサウンドノベルは、読み戻しや読み進みの機能が非常に豪華に作り込まれているので、それを成立させながら、フローチャートで展開するシナリオをきちんと関連づけるのが、とても大変なんですよ。それと、アミダ形式を上手にリンクさせるのが、またさらに大変(笑)。全ての事件が並列的に起きていて、それが矛盾せずにひとつのところに集約されて、消えた伏線はどこかで平行して起きているんだろうな、ということを想像させる。世界は動いているとプレイヤーに感じてもらえる、矛盾のないシステムがちゃんと出来上がっていると思います。相当に、現場は半泣きの状態が続きましたが、とりあえず作りきりましたので、あとはみなさん自身の目で、出来を確かめていただければ」

 さらに気になるのは、その怖さ。

「怖さの質でいえば、“怖おもしろさ”がある作品だと思います。怖さ一辺倒という話は、すぐに怖さに慣れてしまうんですよ。でも、『リング』のように怖さを忘れるほど面白い推理シークエンスがあったりすると、没頭してしまって次に出てくる怖さは倍増しますよね。そのように、物語を解いていく面白さと、Jホラーらしい心霊的な怖さ、さらには幽霊ではない人間の怖さ……それらが上手にリンクしていると思います。さらに言うなら、自分が壊れていく怖さもありますね。主人公が壊れていくのを見るのが楽しくなってしまうかも知れない。あ、オレいま壊れてるって…(笑)。アミダ形式のお話は、すべてのストーリーが交じっていきますから、そこから生まれる怖さもある。『忌火起草』は、多面的な怖さがある、映画でも小説でもできないホラーを提示している作品でしょう」

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イシイジロウがこれから目指すもの

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 以前より、ずっと志向していたゲームと映像の融合によるエンタテインメントを、イシイさんはさまざまな作品を通じて実現してきた。

「そうですね。今まで思い描いてきたものは、ほとんど実現できているような気がします。一流のアニメスタッフや映画スタッフとも仕事が出来ましたし。でも、それができたのは、かなり僕が遠回りをしてきたせいだと思うんです。いつの時期も、ストレートに望む場所にいたわけではなく、いつもエンタテインメントの周辺をうろうろしていた。今、僕はプロデュースもディレクションもできる人間になりましたけど、それは、“ニア”な場所でうろうろしていた経験があってこそ。最終的に、あらゆるエンタテインメントが融合した現在のゲーム開発という場所にたどり着いたのだと思います。きっと今から500年後、黒澤明の『七人の侍』が忘れられても、『スーパーマリオ』は残るかも知れない。それくらい、ゲームはエンタテインメント、いや芸術の歴史における革命だと思っています。映画の歴史でいえば、まだ走っている汽車をただカメラで撮影しているような段階だと思っていい。まだゲームは、物語とゲームが本当の意味で融合していないですし。これからゲームは、それを実現していくはずなんです。業界としても、一時は低迷したハリウッドが盛り返したように、ビジネスとして成熟していくでしょうし、これからのゲームは、長い時間をかけて我々の想像を遙かに超える進化を見せていくと思いますよ」

 では具体的に、イシイさんが今後制作したいのは、どんな作品なのだろう。

「これまでは、アドベンチャーゲームやサウンドノベルのように、物語を提供するゲームを作ってきましたが、本来は、“遊ぶことを想像する”ゲームを作りたいんですね。TRPG(テーブルトークRPG)やボードゲームのような。つまり、シチュエーションだけが提示されて、プレイヤー自身がそこから物語を補完するようなゲームですね。僕が数年前にハマったものに、カードゲームを元にした『人狼BBS』という多人数Webゲームがあるんです。ある村の人達の中から、限られた情報を元に人を食う人狼を推理して毎日ひとりずつ探し当てていくゲームなんですが、これなんかも参加している人の間に自然とドラマが生まれていくのが面白いわけです。そういう、想像する面白さが実現できるゲームはできないかなと思っています。そこにネットが絡むかも知れないし、シミュレーション的な要素が絡むかも知れないし。リプレイが面白いと言われるようなゲームを作っていきたいですね」

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2007年9月 渡辺 祐介氏
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