イシイさんがプロデュースする『忌火起草』は、PLAYSTATION®3タイトルとしての注目度の高さはもちろん、『弟切草』以来、久々に登場する本格ホラーを題材にしたサウンドノベル最新作としての期待度も抜群に高い作品だ。
「チュンソフト開発のサウンドノベルとしては、最近は『かまいたちの夜』のミステリー路線がメインで動いていましたから、『弟切草』でやったホラーというのが、今まで置き去りにされてましたよね。映画やドラマではJホラーがこれだけ流行っていたのに、『弟切草』がそのままになっているのはもったいない。だからホラーをやりましょう、というのが『忌火起草』のスタートでした」
何よりホラーであること。そしてもうひとつ、『忌火起草』を作るにあたって、絶対にハズせないポイントが、イシイさんにはあった。
「これはゲームシステムに関わることなんですが、うちのサウンドノベルはタイトルごとに物語の分岐システムが異なっていますよね。『かまいたちの夜』は、ひとつの正解の筋道からバッドエンドが枝分かれをしていく“ツリー形式”。『街』はザッピング。『弟切草』は、分岐がアミダくじをたどるように行ったり戻ったりする“アミダ形式”なんです。で、ツリー形式のほうは、『かまいたちの夜』において、これ以上はないという完成度にまで高まっていました。でも、アミダ形式のほうは、未だ手つかずで。『弟切草』の分岐システムは、まだ実験段階でした。プレイした方はおわかりでしょうが、ざっくり言ってしまうと、あのアミダ形式は話の繋がりに脈絡がなくて、結果的にかなり取っちらかっているんですよね。ただ、システムとしては、作るのも難しいですが非常に面白い。なので、『弟切草』ではまだ粗かった“アミダ形式”の分岐システムを、『忌火起草』ではより高い完成度で実現したかったんです」
そして間もなく、10月25日に発売となる『忌火起草』。開発を終えた今、印象に残ったポイントをイシイさんに聞いてみると?
「ホラーとサウンドノベル。このふたつが合っているようで合っていないことで、苦労しました。ホラーって、ロジカルじゃないんですよ。ロジカルなホラーで成功した例は『リング』くらいでははいでしょうか。逆に、ロジカルなものをつぶしてこそホラーなんですね。例えば、目の前にふたつのドアがあって、右のドアを開けたら大丈夫で、左のドアを開けたら幽霊がいるということが、論理的にわかってしまうと全く怖くならない。一度ドアを開けて、幽霊がいなかったら、そっちが正解、みたいな展開はホラーにならない。論理的に正解が見つからないから怖さが増すんです。同じ意味で、話に謎解きが介入してくると、謎が明らかになるごとに、そこで起きる出来事の裏がわかるわけですから、怖さは減っていきますよね。今回、ホラー作家さんと組んでシナリオを作っていったんですが、作家さんが恐怖を追求すると全くロジカルにならない。でも、それを僕らが考えると、ロジカルになりすぎて怖くなくなる。そのバランスが、難しかったです」
ところで、先ほどの“アミダ形式”の話。難しさでいえば、それを完成させるのも、さぞ難しい課題だったと思われるが?
「おかげさまで、できました。矛盾のないアミダ形式になりました。ゲーム的には、フラグの塊ですけどね(笑)。チュンソフトのサウンドノベルは、読み戻しや読み進みの機能が非常に豪華に作り込まれているので、それを成立させながら、フローチャートで展開するシナリオをきちんと関連づけるのが、とても大変なんですよ。それと、アミダ形式を上手にリンクさせるのが、またさらに大変(笑)。全ての事件が並列的に起きていて、それが矛盾せずにひとつのところに集約されて、消えた伏線はどこかで平行して起きているんだろうな、ということを想像させる。世界は動いているとプレイヤーに感じてもらえる、矛盾のないシステムがちゃんと出来上がっていると思います。相当に、現場は半泣きの状態が続きましたが、とりあえず作りきりましたので、あとはみなさん自身の目で、出来を確かめていただければ」
さらに気になるのは、その怖さ。
「怖さの質でいえば、“怖おもしろさ”がある作品だと思います。怖さ一辺倒という話は、すぐに怖さに慣れてしまうんですよ。でも、『リング』のように怖さを忘れるほど面白い推理シークエンスがあったりすると、没頭してしまって次に出てくる怖さは倍増しますよね。そのように、物語を解いていく面白さと、Jホラーらしい心霊的な怖さ、さらには幽霊ではない人間の怖さ……それらが上手にリンクしていると思います。さらに言うなら、自分が壊れていく怖さもありますね。主人公が壊れていくのを見るのが楽しくなってしまうかも知れない。あ、オレいま壊れてるって…(笑)。アミダ形式のお話は、すべてのストーリーが交じっていきますから、そこから生まれる怖さもある。『忌火起草』は、多面的な怖さがある、映画でも小説でもできないホラーを提示している作品でしょう」 |