こうして金澤さんは、憧れの美大に合格。複数受かった大学、学科から、彼が選んだのは多摩美術大学の立体デザイン科だった。なぜ、立体を?
「平面の絵は、独学でも描けるようになるだろう。でも立体物は、自分でふと思いついて作れるものじゃない。だったら、今がチャンスだと考えました。それまで僕が作ったことのある立体物は、せいぜい20〜30cmのプラモデルを使ったジオラマくらい。でも、大学の施設を使えば、金属やガラスを使った大きな作品を作れるわけですよ。それが魅力でしたね。ふだん扱えない素材で、デカい物を作ってみたい。そう考えて、立体デザイン科に進むことにしたんです」
ところで、少年期にイラストレーターへの憧れがあったという金澤さんだが、多摩美に入学したときは、将来は何になろうと?
「就職はしなきゃいけないとは思っていましたが、特にどの分野の何になろうという具体的な展望はなく。なんとなく、“立体もできる絵描きでいけんじゃん?”と思ってましたね。過去の自信過剰が、まだ捨て切れてなかった(笑)。アートに関しては、時代もそんな雰囲気だったんですよ。80年代に流行した“ヘタウマ”ブームの流れから、日比野克彦さんのように、イラストと絵画の間くらいのところで、平面に囚われず、立体も表現しましょうという大きなムーブメントが起こっていた。そこに、何かもっと面白いことがあるんじゃないか。僕がもぐり込む余地もあるんじゃないか、と思ったんですね」
そんな金澤さんは、どのような大学生活を送っていたのか。
「えーと……留年を1回しました(笑)。作品を提出し忘れて、いちばん面白みのない1年生を2回やってしまいましたね。でも、その後は面白かったですよ。授業では、木材、金属、ガラス……いろんな素材で、1ヵ月にひとつ課題を作るというのが基本のパターン。その中でも、鉄と火を使う金属加工が面白くて、専攻も金工に決めました。鉄には……ロボット好き、メカ好きの血が騒ぐんですよ(笑)」
では、プライベートでは?
「そっちも鉄っぽい(笑)。バイクに夢中でしたね。スクーターに始まり、ギア付きの50ccに乗り、それが物足りなくなったので中型免許を取って、その足でバイクショップに行き新車を買っちゃったくらい。愛車は緑のHONDAのSPADA。その後、スズキのGSXの中でも、ちょっとヌメっとした形のFという車種に乗り替えました。大学生活最後に、北海道を2週間ほどかけてツーリングした思い出があります。大学を卒業してからは、愛車を事故で潰してしまったこともあり、当時の彼女……今の奥さんからもバイクは危ないと言われて、すっかり乗らなくなってしまいましたね」
バイクと金工に明け暮れていた美大生・金澤さんも、いよいよ卒業シーズンを迎える。卒業制作の作品は、鉄でできた全高2m30cmほどの巨大なカマキリだった。
「卒業制作をやってみてつくづく感じたのは、金工作品をつくるには、とにかく体力と根気がいるということでした。例えば、ガラス作品なら締め切り直前にガーッと作っても何とかなる。でも、金属の作品は、一朝一夕に作れるものじゃないんです。僕は、さほど体力に自信があるわけではないし、何より、プラモデル小僧だった時からずっと、立体物を作ると細部にこだわるあまり、作品を完成させられないという癖がある。しかも、大学では、才能あるヤツがスゴい作品を作っているわけです。それを見てしまうと、とてもじゃないけど、僕は金工で食っていく自信が持てませんでした」 |