そして2005年。金澤さんは、4月24日にPLAYSTATION®3で発売を控えている大作シミュレーションRPG『戦場のヴァルキュリア』を手がけることになった。壮大な戦場ドラマを描くこの作品は、ウォーシミュレーションの戦略要素とアクション要素を融合したバトルシステムも個性的。さらに、この種のゲームでは珍しい、手描きの水彩イラストをモチーフにしたビジュアル表現も画期的だ。“CANVAS”と呼ばれる、そのビジュアルワークを牽引したのが、金澤さんだ。
「2004年春に『Kunoichi -忍-』の開発が終わって、『エターナル アルカディア』で一緒だったディレクターと、『Kunoichi -忍-』で一緒だった、今の『戦場のヴァルキュリア』プロデューサーに、新しいゲームの企画書を書きたいからちょっと手伝ってくれと言われたんです。その時決まっていたのは、戦場物のドラマをやるという構想とキャラクターの1枚絵だけ。想定していたハードもPSP®で……今とは内容もずいぶん違いましたね。しかも会社が推進したプロジェクトではなく、有志がゲリラ的に立ち上げた企画。だから、その3人のミーティングも昼休みを利用してこっそりやってました(笑)。
そこで僕に与えられたお題が、“地図を描け”。地図を2〜3枚と、キャラクターイラストに軽く色を塗って、原案書用の素材を渡しました。そこからしばらくは、そのゲリラプロジェクトから僕は離れて、他のタイトルの仕事をしていたんです」
実はその時期、金澤さんは、ある想いを抱いていた。
「仕事が忙しくて、体力的にも気力的にも、このままゲーム業界にいていいものだろうかと、ちょっと悩んでいたんです。でも、実はゲリラプロジェクトのほうは着々と水面下で進んでいて、気がついたら今の“CANVAS”システムのもとになる手描きの画が上がってきてたんです。原案書を手伝ってから、2年が経ってました」
当初のイメージは、『アルプスの少女ハイジ』の世界観の中を、戦車が走っている感じのゲーム。戦争を題材にしながらも、基本的には人間ドラマなので、絵柄にはちょっと懐かしい雰囲気を盛り込もうと構想されていた。そこで金澤さんが、再びゲリラプロジェクト=『戦場のヴァルキュリア』の進捗を目にしたときには、今とは全く別物ではあるが、世界観作りのキーとなる、手描きアニメ風の3DCGを使った簡単なデモも仕上がっていた。しかし、そのデモは、プロデューサーやディレクターが想定していた表現からはまだまだ遠かった。
『プロサッカークラブをつくろう!ヨーロッパチャンピオンシップ』

「そこで、僕に声が掛かったんです。3DCGの知識もあったし、ミリタリーにも多少強かったというのが理由みたいで(笑)。その頃、僕はちょうど『プロサッカークラブをつくろう!ヨーロッパチャンピオンシップ』の開発を終えて、次はどうしようかなと思っていたし、仕事に悩んでいた時期。でも、その“CANVAS”システムのデモを観て、震えがきました。
それまでのセガのビジュアルといえば、超リアルか劇画タッチかのどちらかで、受ける印象も堅かった。ところが、『戦場のヴァルキュリア』は全然違う。すごいことをやろうとしてるのが、すぐに分かりました。これはぜひやりたいと手を挙げて、やる気満々でチームに合流したんです」
画を動かすシステム、技術的な部分は検証終了段階に来ていた“CANVAS”システム開発で、金澤さんに求められたのは、さらなる高みを目指すためのビジュアル表現の構築。
「僕がデザインリーダーになる前は、一時期、あまりにも絵画っぽい画面デザインではゲームプレイがしにくいという理由で、今とは違う方向性に傾いたこともあったんです。でも、僕はそこを曲げるのは嫌でした。それがあるからこそ、このゲームは面白くなると確信してましたから。
基礎的な技術でいうと、キャラクターの輪郭の取り方、水彩タッチをのせる紙の質感の合わせ方、影線の入れ方などは、その段階でだいたい使えるものになっていました。なので、僕はそこに大きな要素として、新しい遠景の表現法をまず加えたんです。
ふつうの3DCGで背景を作ると、視点をズームアウトした時、近くにあった物がそのまま小さくなっていくだけです。遠くにあるのに、形は細かいまま。それは、絵画ではあり得ないわけです。絵を描くとき、遠景を細かく描き込む人はいないでしょう?人間の目も遠景はぼんやりとしか見えないようにできている。そこはざっくり見せたい。でも、CGにただフォグをかけただけでは、画像は薄くは見えますが、ディテールの細かさは変わらないんです。だから、新しくフィルターを1枚かましてみたんです」
「技術的に、僕がやったのはそれくらいですよ」と、金澤さんは謙遜するが、あった技術にさまざまなブラッシュアップを重ね、技術的に秀でたアイデアを、人の目を惹き心を打つ“表現”、それまでにないCGビジュアルの新たな“文法”に昇華させたのは、金澤さんの力だ。特に、先ほどの遠景表現の技法は、金澤さんにとっては譲れないポイントだった。
「僕は、目立たない部分ではありますけど、“CANVAS”システムを完成させる大事なことだと思ったんです。CGクリエイターにとって、あのように“表現を粗くする”ことは、ふだんやるべきことではないし、やろうとも思わない。ゲームクリエイターとしても、余計なフィルターがあるおかげで、処理も重くなるから本当はやりたくない。でも、あえてそれをやらないと、水彩画らしさは出ないし、ビジュアルとしての広がりも出ない。CGらしさを感じさせないことを目標とする“CANVAS”システムにとっては、本当に、あそこがキモだったと思うんですよね」
線を減らす、彩度を抑える、生の技術はそのまま使わない。高度なCGに求められる要素を、できるだけ排除し、アレンジして“CANVAS”システムに落とし込む作業は、一見、その“頑張り”が伝わりにくい。
「プロの方が見れば、僕らがそれなりに頑張っていることを感じてもらえるんでしょうけど、一般のユーザーの方には、ゲームとしての面白さがいちばん大事なことですから、それでいいんです。ビジュアルは、ぼんやり見て、世界観や雰囲気を味わってもらえれば。リアルで無骨な戦車を、ほのぼの描きながらメカらしさを出すというのも、これでなかなか難しいことなんですよ(笑)。
ビジュアルに関してもそうなんですけど、ゲームシステムに関しても、目に付きにくいところに頑張りすぎてるタイトルかも知れません。柔らかなビジュアルを、やけに世界観が緻密なものと融合させるというのも、本来は食い合わせが悪いですし。ミスマッチが至るところに盛り込まれた、バランスを取るのが難しい作品なんです。まぁそれも、自分達で勝手に上げたハードルですから、仕方ないんですけどね(笑)」
金澤さんにとっては、ゲームの面白さの表現に、さらなる新しさを付加した作品ともなった。
「『戦場のヴァルキュリア』は、資料で説明するのが本当に難しいゲーム。映像をネットで公開するようになって、やっと、面白さがユーザーの方にも伝わってきたと思うんです。やっていただくとわかるんですが、遊んでいる場面の視点を引いていくと、地図になって、その地図が実は本の中のひとコマである、というような面白い演出もさせてもらってます。視点を動かしてこそ分かる変化、PS3®でしかできない表現もたくさんある。ゲームとしても、ふと攻め方を変えると、バトルが劇的に変化するという面白さもあります。ユーザーの方には、ぜひ実際に触ってみてくださいとしか、今は言えないですね(笑)」 |