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指輪1個から世界まで何でも作れる。ゲームは、デザイナーにとって夢のような仕事場です。 金澤 浩隆

セガ入社〜3Dアートから3Dゲームへ

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 とはいえ、アーティストになる夢全てを諦めきれなかった金澤さん。大学時代アルバイトしていたアウトラインフォントの制作会社に入社。仕事をしながら、イラスト、絵画のコンクールに作品を出し続け、チャンスを伺うが、上手くはいかなかった。

「その頃は、もう今の奥さんと付き合っていて、自分でもこのままじゃまずいと思ったんです。そんなに気楽なことではダメだと。そんな時に、会社で『日経CG』という業界向け雑誌を読んだんです。そこに、たまたまセガの募集が載っていました。キャッチコピーが“キラキラワークス(仕事)はじめよう”(笑)。 『バーチャファイター』で、セガに衝撃を受けていた僕は、セガという名前に惹かれたんです。ゲームが3Dになるとこうなる、という情報も一般的になっていた時期でした。立体で大きな物を作るのは無理と思っていた僕にとっては、実際に立体を作ることはダメでも、画面の中なら可能だということが魅力的でした。なおかつエンタテインメント。将来性もある。ゲーム業界も悪くないと心で思っていた僕を、その募集記事が後押ししたんです」

 大学生になってからは、さほど熱心ではなかったが、思春期にゲームをやり込んでいた金澤さんにとって、ゲーム業界はとても魅力的に映った。映像を作るだけではなく、インタラクティブなメディアで自由にユーザーが遊ぶことのできる3Dゲームは、金澤さんの心を捉え、彼はさっそく、履歴書と作品をセガに郵送。一度、面接通知を受け損ねるというアクシデントがありながらも、とんとん拍子に就職活動は進み、96年6月、デザイナーとして中途採用でセガに入社することになった。

「僕はそれまで、学生時代も浪人や留年をして、ちゃんとした就職活動もせず、回り道をしてきました。見ようによっては、それは不幸続きだったのでしょうが、中途採用でもセガに入れた自分は、逆に幸運続きだったのかも知れないと思うんです。なんとかはなってる(笑)」

 では、実際にセガに入ってみて、どんな感想を持ったのだろうか?

「そうですね……アウトラインフォントの制作会社は、経営的にさほど順調ではありませんでしたが、残業はなかった。でも、セガは違いました。社員はみんなモチベーションがえらいことになってて(笑)、夜遅くまで働いているわけです。キレイな格好をしている人達が、日ごとに汚れていくさまを目の当たりにして、労働条件に関しては、“これはすごい業界にきてしまった”と思ったのが本音です。
 でも、仕事自体は面白くてしょうがない。最初に配属されたのは、当時のCS2研。『サクラ大戦』の横で、セガサターンの『ADVANCED WORLD WAR 〜千年帝国の興亡〜』を作っているチームでした。担当はマップデザイン。残念ながら、それは念願のフル3Dタイトルではなかったんですが、マップ表現を3D的に見せていたユニークなシミュレーションでした。先輩にも恵まれていた。ツールの使い方もしっかり覚えられましたし、今まで勉強してきたデッサンのスキルもいかせた。会社のマシンもハイスペックで、それを自由に触れるのも楽しかった。家に早く帰れないのは辛かったですが(笑)、“帰れなくてもいいや”と思うくらい、仕事は面白かったです」

 入社後半年間、『ADVANCED WORLD WAR 〜千年帝国の興亡〜』の開発で、ゲーム作りの面白さに目覚めた金澤さん。その後もいくつかのタイトルでデザインを担当し、ますますモチベーションを高め、ついに念願のフル3Dタイトルを手がけることになった。

『エターナル アルカディア』

「それが、『エターナル アルカディア』。97年の冬のことでした。レンダリングムービーなしの完全3Dゲームという、けっこう無茶をしているタイトルでしたね(笑)。そこで僕は、ワールドマップとインターフェイスのデザインを担当したんですが、そのワールドマップが、完全に3D。デザイナーもアシスタント以外は僕ひとりだったので、世界を丸ごとひとつ、好きに作らせてもらえたんです。  本当にやりがいのある仕事でした。コストを考えたら、たかだかワールドマップをフル3Dで表現するなんて、今では考えられないほど贅沢だし、開発に3年間もかけて作っていたというのもかなり贅沢。内容は豪華で、チャレンジャブルなタイトルでしたが、会社にとってはコストパフォーマンスの悪いソフトだったでしょうね(笑)」

『Shinobi』

 3Dでデカい物を作りたい。金澤さんの夢は、『エターナル アルカディア』のワールドマップ制作で実現。『Shinobi』シリーズからは、デザインリーダーという要職を任され、金澤さんは持てる力を発揮し続けた。

「デザインリーダーという仕事は、世界観設定や画面表現にまつわるデザイン全部に責任持つこともあるし、デザイナーの管理だけをする場合もあるし、大元のデザインをつくってあとはスタッフに任せてしまう場合もあるしと、セガの中でもタイトルによってやることが違います。ただし、リーダーと名が付く役目ですから、判断力はかなり求められる。とても勉強になります」

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『戦場のヴァルキュリア』〜“CANVAS”との格闘

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 そして2005年。金澤さんは、4月24日にPLAYSTATION®3で発売を控えている大作シミュレーションRPG『戦場のヴァルキュリア』を手がけることになった。壮大な戦場ドラマを描くこの作品は、ウォーシミュレーションの戦略要素とアクション要素を融合したバトルシステムも個性的。さらに、この種のゲームでは珍しい、手描きの水彩イラストをモチーフにしたビジュアル表現も画期的だ。“CANVAS”と呼ばれる、そのビジュアルワークを牽引したのが、金澤さんだ。

「2004年春に『Kunoichi -忍-』の開発が終わって、『エターナル アルカディア』で一緒だったディレクターと、『Kunoichi -忍-』で一緒だった、今の『戦場のヴァルキュリア』プロデューサーに、新しいゲームの企画書を書きたいからちょっと手伝ってくれと言われたんです。その時決まっていたのは、戦場物のドラマをやるという構想とキャラクターの1枚絵だけ。想定していたハードもPSP®で……今とは内容もずいぶん違いましたね。しかも会社が推進したプロジェクトではなく、有志がゲリラ的に立ち上げた企画。だから、その3人のミーティングも昼休みを利用してこっそりやってました(笑)。
 そこで僕に与えられたお題が、“地図を描け”。地図を2〜3枚と、キャラクターイラストに軽く色を塗って、原案書用の素材を渡しました。そこからしばらくは、そのゲリラプロジェクトから僕は離れて、他のタイトルの仕事をしていたんです」

 実はその時期、金澤さんは、ある想いを抱いていた。

「仕事が忙しくて、体力的にも気力的にも、このままゲーム業界にいていいものだろうかと、ちょっと悩んでいたんです。でも、実はゲリラプロジェクトのほうは着々と水面下で進んでいて、気がついたら今の“CANVAS”システムのもとになる手描きの画が上がってきてたんです。原案書を手伝ってから、2年が経ってました」

 当初のイメージは、『アルプスの少女ハイジ』の世界観の中を、戦車が走っている感じのゲーム。戦争を題材にしながらも、基本的には人間ドラマなので、絵柄にはちょっと懐かしい雰囲気を盛り込もうと構想されていた。そこで金澤さんが、再びゲリラプロジェクト=『戦場のヴァルキュリア』の進捗を目にしたときには、今とは全く別物ではあるが、世界観作りのキーとなる、手描きアニメ風の3DCGを使った簡単なデモも仕上がっていた。しかし、そのデモは、プロデューサーやディレクターが想定していた表現からはまだまだ遠かった。

『プロサッカークラブをつくろう!ヨーロッパチャンピオンシップ』

「そこで、僕に声が掛かったんです。3DCGの知識もあったし、ミリタリーにも多少強かったというのが理由みたいで(笑)。その頃、僕はちょうど『プロサッカークラブをつくろう!ヨーロッパチャンピオンシップ』の開発を終えて、次はどうしようかなと思っていたし、仕事に悩んでいた時期。でも、その“CANVAS”システムのデモを観て、震えがきました。
 それまでのセガのビジュアルといえば、超リアルか劇画タッチかのどちらかで、受ける印象も堅かった。ところが、『戦場のヴァルキュリア』は全然違う。すごいことをやろうとしてるのが、すぐに分かりました。これはぜひやりたいと手を挙げて、やる気満々でチームに合流したんです」

 画を動かすシステム、技術的な部分は検証終了段階に来ていた“CANVAS”システム開発で、金澤さんに求められたのは、さらなる高みを目指すためのビジュアル表現の構築。

「僕がデザインリーダーになる前は、一時期、あまりにも絵画っぽい画面デザインではゲームプレイがしにくいという理由で、今とは違う方向性に傾いたこともあったんです。でも、僕はそこを曲げるのは嫌でした。それがあるからこそ、このゲームは面白くなると確信してましたから。
 基礎的な技術でいうと、キャラクターの輪郭の取り方、水彩タッチをのせる紙の質感の合わせ方、影線の入れ方などは、その段階でだいたい使えるものになっていました。なので、僕はそこに大きな要素として、新しい遠景の表現法をまず加えたんです。
 ふつうの3DCGで背景を作ると、視点をズームアウトした時、近くにあった物がそのまま小さくなっていくだけです。遠くにあるのに、形は細かいまま。それは、絵画ではあり得ないわけです。絵を描くとき、遠景を細かく描き込む人はいないでしょう?人間の目も遠景はぼんやりとしか見えないようにできている。そこはざっくり見せたい。でも、CGにただフォグをかけただけでは、画像は薄くは見えますが、ディテールの細かさは変わらないんです。だから、新しくフィルターを1枚かましてみたんです」

 「技術的に、僕がやったのはそれくらいですよ」と、金澤さんは謙遜するが、あった技術にさまざまなブラッシュアップを重ね、技術的に秀でたアイデアを、人の目を惹き心を打つ“表現”、それまでにないCGビジュアルの新たな“文法”に昇華させたのは、金澤さんの力だ。特に、先ほどの遠景表現の技法は、金澤さんにとっては譲れないポイントだった。

「僕は、目立たない部分ではありますけど、“CANVAS”システムを完成させる大事なことだと思ったんです。CGクリエイターにとって、あのように“表現を粗くする”ことは、ふだんやるべきことではないし、やろうとも思わない。ゲームクリエイターとしても、余計なフィルターがあるおかげで、処理も重くなるから本当はやりたくない。でも、あえてそれをやらないと、水彩画らしさは出ないし、ビジュアルとしての広がりも出ない。CGらしさを感じさせないことを目標とする“CANVAS”システムにとっては、本当に、あそこがキモだったと思うんですよね」

 線を減らす、彩度を抑える、生の技術はそのまま使わない。高度なCGに求められる要素を、できるだけ排除し、アレンジして“CANVAS”システムに落とし込む作業は、一見、その“頑張り”が伝わりにくい。

「プロの方が見れば、僕らがそれなりに頑張っていることを感じてもらえるんでしょうけど、一般のユーザーの方には、ゲームとしての面白さがいちばん大事なことですから、それでいいんです。ビジュアルは、ぼんやり見て、世界観や雰囲気を味わってもらえれば。リアルで無骨な戦車を、ほのぼの描きながらメカらしさを出すというのも、これでなかなか難しいことなんですよ(笑)。
 ビジュアルに関してもそうなんですけど、ゲームシステムに関しても、目に付きにくいところに頑張りすぎてるタイトルかも知れません。柔らかなビジュアルを、やけに世界観が緻密なものと融合させるというのも、本来は食い合わせが悪いですし。ミスマッチが至るところに盛り込まれた、バランスを取るのが難しい作品なんです。まぁそれも、自分達で勝手に上げたハードルですから、仕方ないんですけどね(笑)」

 金澤さんにとっては、ゲームの面白さの表現に、さらなる新しさを付加した作品ともなった。

「『戦場のヴァルキュリア』は、資料で説明するのが本当に難しいゲーム。映像をネットで公開するようになって、やっと、面白さがユーザーの方にも伝わってきたと思うんです。やっていただくとわかるんですが、遊んでいる場面の視点を引いていくと、地図になって、その地図が実は本の中のひとコマである、というような面白い演出もさせてもらってます。視点を動かしてこそ分かる変化、PS3®でしかできない表現もたくさんある。ゲームとしても、ふと攻め方を変えると、バトルが劇的に変化するという面白さもあります。ユーザーの方には、ぜひ実際に触ってみてくださいとしか、今は言えないですね(笑)」

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金澤浩隆が目指すゲームビジュアル

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 これまでさまざまなタイトルを手がけ、『戦場のヴァルキュリア』で、ゲームビジュアルの新たな可能性を追求した金澤さん。彼にとって、ゲームでビジュアルを表現することとは、何なのだろうか?

「ここにきてやっと、ふつうの映像作品ではできない、ゲームならではの表現が見えてきたんじゃないかと思うんですよね。『戦場のヴァルキュリア』は、そのひとつの例。ゲーム作りというのは、本当に面白いんです。
 僕は、もともとはゲームグラフィックのデザイナーを目指していたわけではないですが、ゲーム制作は、他のデザイン仕事では味わえない醍醐味がたくさんあるんです。これは、僕のセガの先輩も言っていたことですが、例えば家電メーカーや車メーカーに就職してしまうと、そのジャンルのデザインしかできない。でも、ゲームなら、指輪1個から世界1個まで、なんでもデザインできちゃう。今は、現場も分業制になっているので、ひとりで何でもというわけにはいきませんが、それはデザイナーにとって、夢のような環境なんですよ。しかも、車のデザインをひとつ失敗すると事故に繋がりますが、ゲームなら安全(笑)。むしろ、みなさんに楽しんでもらえるものを作れる。ゲームを作る仕事は大変ですが、こんなに夢のある面白い仕事はないと思っています」

 その環境で、今後、金澤さんはデザイナーとして何を目指していくのか?

「今回、『戦場のヴァルキュリア』で全力投球はしていますが、“CANVAS”システムは、まだ完成していない。まだまだできる余地がある。これをまず伸ばしたいと思います。アニメーション作品がセルアニメという技法を定着させたように、“CANVAS”システムがゲームのビジュアル表現の定番として定着するくらいこなれていけば、と思いますね。水彩画っぽいと言われるのではなく、“CANVAS”っぽいよね、と言われるように。
 あとは、最近なかなか現場の作業ができる立場でもなくなってきたので、もう一度、『エターナル アルカディア』の時のように、僕ひとりで世界を1個作るような仕事をしてみたいですね。それには、自分で企画を立ち上げて、ここだけは俺が自分でやるんだ、と言い張らないとダメなんでしょうけど(笑)」

 では最後に、このコーナーお約束の質問を。金澤さんのように、ゲームのデザイナーを目指す人に、アドバイスをぜひ!

「基礎デッサンと基礎構成ができれば、美大までは行けます。誰でも大学まではいけるというのが僕の持論です。あとはモチベーションさえあれば、何のデザイナーにもなれると思います。大事なのは、モチベーションでしょうね。
 あとは、ゲームに関していえば、こだわりのあるなしが仕事の質に影響しますよね。僕はあまりこだわりのないほうだから、偉そうなことは言えないですが、ゲームは遊ぶ人もいろいろなこだわりを持っていますから、自分がそれまで何を好きで、何と出会ってきたかが伝わってしまう。それを覚えておいていただければ。それをもとに頑張ってはいただきたいですが、“頑張ってる”という意識を持ち過ぎちゃうと、現場が辛くなってしまう。だから、“大変だけど楽しい!”と、物作りの熱意を育てながら、この業界を目指してほしいですね」

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2008年2月 新川 宗平氏
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