ゲーム業界で働きたいなら“この会社”ではなく“株式会社ゲーム業界”に就職する気でいてほしい。麻野 一哉

まるで映画! 最新作『銃声とダイヤモンド』演出の見どころ

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 そんな麻野さんの最新作が、フリーランスの交渉人(ネゴシエーター)を主人公に、リアルタイムに凶悪犯との交渉術を展開するユニークなアドベンチャーゲーム、PSP®『銃声とダイヤモンド』(SCE)だ。

「この作品は、『アナタヲユルサナイ』の開発スタッフが手がけています。物語のテーマが交渉人に決まる前は、数学のゲーム理論を当てはめたシナリオにしようという話もありましたね。でも、シナリオを進めるうちに、その一部としてあった“交渉”がクローズアップされて、今の物語に落ち着きました」

 ここで麻野さんは、監修・演出という立場で、シナリオ監修、音楽の選定なども含めて手腕を発揮。RPGでいえばバトルの部分にあたる“交渉”シーン以外は、すべて麻野さんが演出を手がけたことになる。

「交渉シーンは、システムが違うのでやっていませんが、それ以外の場面は、すべて僕の責任です。
 キャラクターの絵は別の人が描いていますが、使うか使わないか、どう修正するか、追加するかなど注文を出すのは僕ですし、どの音楽がどこから流れるかを決めるのも僕がやります。シナリオはコバヤシさんという方が書いてくれていますが、それをゲームにマッチさせるように、話の流れから表現から、だいぶいじってます。・・・申し訳ないなあと思いながら。なので、そこが面白くないと言われると、全部僕が悪い。面白いと思ってもらえたら、みんなの手柄を僕が上手くまとめられたんだと思っていただければ(笑)。
 美味しい食材がすべてそろったところで、レストランの内装と料理の味付けと盛りつけをした。僕の仕事は、そんな感じですかね」

 社会性の高い事件の数々、そこから犯罪組織の巨悪に繋がるストーリー展開も、現代社会の“今”を感じさせる『銃声とダイヤモンド』。これはまさに、大人のためのゲームだ。凶悪犯罪に立ち向かう、というテーマはアドベンチャーゲームにはよくあるものに感じられるかもしれないが、本作はそこもまたひと味違う。

「凶悪犯との交渉がシステムのメインのゲームですから、相手がいくら悪いヤツだとしても、犯人との信頼関係をまず作らなくてはならないというのがポイントで。善悪がハッキリしていること自体が、まず意味がない。善悪関係なく、物事の着地点を見つけていくゲームというのは、プレイする方にも、かなり大人な感覚が要求されると思いますね。そこが、非常にユニークで面白いところじゃないですかね」

そのなかで、映像部分の演出での開発エピソードをぜひ。

「そうですね、ビジュアルそのもののテイストはディレクターとキャラクターデザイナーの趣味ですが、ただ上がってくる絵だけでは、映像でドラマ性を高めるにはひと工夫足りないんですよね。キャラクターが演技をするのに、そこでどんな表情をしてるか、どんな仕草をしてるかが大切じゃないですか。
 例えば、拳銃を突きつけられたら人はビクッとするし、悲しんでる人はうなだれてくれないと、芝居が成り立たない。デザイナーにすべてお任せだと、絵単独では成立しても、シーンとして成り立たないことが出てくる。違和感が残るんです。すると、プレイヤーがドラマに入り込めない。このシーンで絶対欲しい表情とか動きの細かなところは、色々要求しました。もし諸々の事情で用意できないなら、シーンそのものを見直して、最悪、シーンごとなくします。邪魔なもの見せるぐらいなら、ないほうがいい」

 台詞テキストの表示などにも、麻野さんのリアルな臨場感へのこだわりが込められている。テキスト主体のゲームは、プレイヤーがボタンを押すとテキストが送られ、例えキャラクター同士の掛け合いでも、ひとつひとつの台詞を独立して読み進めることになるが、『銃声とダイヤモンド』の場合は、テンポ感を重視。複数人が会話するシーンでは、複数の台詞が微妙なタイミングで重なるなど、現実の会話でよく起こるクロストークが上手く表現されていたりする。文字の大きさが、キャラクターの感情に合わせて変化するのも面白い。
 リアルタイムで進む会話のどこにユーザーが反応したらいいか? というメインの交渉シーンも、これまでのゲームでは味わえないスリルを楽しんでもらえるハズだ。
 さらに音楽。楽曲のレベルの高さも、『銃声とダイヤモンド』の大きな魅力だ。

「そもそも曲自体がいいので、助かりましたね。曲の発注というのは、とても難しいんです。緊迫した曲といっても、具体的にどうと言葉で説明はできないので、上がってきた曲に対して“怖い系じゃなくて、追い掛けていく系で”といったようなやり取りで詰めていくしかない。
 出来上がった曲に関しても、A単独では一定のシーンでしか使えないけど、Bという曲とセットなら他のシーンにも合うことがある。曲同士の組み合わせによって、無限に表現は可能なので、それを地道に試していくんですよね。このあたりは、職人芸みたいなもので、人に説明するのはやはり難しいですね」

 先ほど『アナタヲユルサナイ』の話にも出てきた、通常のアドベンチャーとは異なるサウンドノベル風の音楽演出も、キャラクターの感情、状況の臨場感の表現への強いこだわり。

「同じ場所で繰り広げられる会話でも、緊張感のあるなしで、音楽を変えています。だからこそなんですが、音楽に関して僕がいつも難しいと思うのは、何気ないシーンなんですよね。緊迫はしていない。悲しくもない。コミカルでもない。淡々としている時の曲って、意外とないものなんです。だからといって無音にすると、今度は無音であることに意味が出てしまう。ドラマや映画なら、台詞があるか場も持ちますが、音声のないゲームでは、曲を作る方もいちばん頭を悩ませるシーンですよね。演出家も、事件が起きたほうがラク(笑)」

 ではここで問題を。もし今、このインタビューシーンを麻野さんが演出するとしたら?

「そうですねぇ……音楽は、コミカル系でいいんじゃないかな(笑)。映像は……僕が喋ってる途中途中に、回想シーンを入れますね。セピアカラーで、小さな僕が小学校の廊下を走り回ってる写真なんかを入れて、飽きさせないようにしないと、ですね。音楽も少し派手にしなくちゃダメかな。インタビュー映像は動きがないので、話の内容に関係なく、観てると飽きちゃいますからね。特に僕の顔じゃ、ただ観てるのは辛いじゃないですか(笑)」

 では話をゲームに戻して。『銃声とダイヤモンド』で、いちばん苦労されたシーンは?

「誰とは言えませんが、最後のボスが能書きをたれるシーンですね(笑)。カットをどんどん変えて上手く作らないと、かなりイライラするんですよ」

 麻野さんの演出術は、大学時代に耽溺した演劇から得たセンスがベース。音楽にこだわっているのも、舞台演劇の経験からだと麻野さんはいう。だが、ここ10年ほどの彼は、意識的に映像作品の演出術を採り入れることにも積極的だ。

「『銃声とダイヤモンド』も、映画の演出を意識しています。あるシーンのお尻に、次のシーンで入ってくる効果音や音楽を先に乗せて、観客の気持ちの準備をさせるというのをやっているんですよ。おそらく、普通にプレイしていたら気がつかないかと思うんですが、例えばバーのシーンの前。その直前のシーンの暗転くらいから、バーの音楽を、違和感ない程度に鳴らしたりしています。
 今までだったら義理堅く、まずバーの看板を見せて、街の雑音を入れて、扉の開く音を入れて、やっとバーの音楽を入れて、人物に近づいたら音を大きくして……とやってきましたが、音楽を先に鳴らしておけば、いきなりバーの中の会話が始まっても自然なんです。そこでテンポよくした、というのが新しいチャレンジのひとつ。ただ、ゲーム以外のメディアではさんざんやられていることなので、新鮮味は全然ないでしょうけど(苦笑)。
 でも、こんなことはどうでもいいことです。ユーザーには、何も感じずにプレイしていただきたい。そのほうが僕としては嬉しい」

 映画っぽさを感じるタイトル名も、本作の大きなポイント。一度聞いたら忘れない。

「ですよね(笑)。一見、どんな内容か不思議に思うタイトル名ですが、僕らが最初に出した案は、もっとすごかったですよ。『ライオンズ・シェアは認めない』とか、『震える舌、乾いた唇』とか(笑)。さらにいえば、最初のタイトル名は『鋼鉄のキリン』でしたね。さすがに、これはわかりにくすぎると試行錯誤した結果、『銃声とダイヤモンド』に落ち着きました。でも、没になったタイトル名も、ゲームを遊んでもらうとすごく理解できる題名。もちろん『銃声とダイヤモンド』も、そうです。おかしなタイトル名だなぁと気になった方は、ぜひ遊んでみてください」

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ゲームデザイナー志望者に伝えたいこと

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 これまでは、アドベンチャーゲームをメインに活躍されてきた麻野さんだが、さて今後はどんなジャンルのゲームで腕を振るっていきたいのだろうか。

「さすがにアクションやシューティングはキツいですが、アドベンチャーやRPGにこだわるつもりは、まったくないですね。ひとつ望みがあるとすれば、テーブルゲーム、ボードゲームを作ってみたい。『モノポリー』や『いただきストリート』のようなゲームを、じっくり時間をかけて作れる機会があるといいなぁと。そこで、演出にもこだわれたら最高ですよね。
 他にもいろいろ、やってみたい企画はありますね。これはアドベンチャー風になると思いますが、一つ挙げるとすれば……『キューブ』という映画があったじゃないですか。あんなのが作りたいですね。いわゆるソリッド・シチュエーション。昔のアドベンチャーには、多かったですよね。ふと目が覚めるとどこかわからない場所にいて、ドアがあるから開けてみようといってゲームが進んでいく。原点回帰ではあるんですけど、新しい形として『キューブ』があるので、そのなかで人を裏切ったり裏切られたりというドラマができればいいですよね。あんまり言うと、ネタバレになっちゃうのでこのへんにしときますけど(笑)」

 例えば、『銃声とダイヤモンド』の続編などは?

「お話をいただけるんでしたら、それはもうぜひ(笑)。今回、これを作ってつくづく感じましたが、気心がしれたスタッフと一緒の仕事は、やはりいいですね。僕はフリーになってから、いろいろな会社の方とご一緒になることが多いんですが、仕事をする上で慣れ親しんだ常識が共有できるかどうかというのは、大事なんですよね。
 このゲームの開発には、実はチュンソフト時代に一緒だった人間も多く関わっているので、僕がやりたいこと、相手がやりたいことが、ツーカーなんですよ。これは宝だなぁと思いますね。
 それは、仕事の内容だけに限ったことじゃない。打ち合わせの時間に、1分でも遅刻すると激怒するか、30分までなら許されるか……そういうところの感覚の共有も、ゲーム作りには影響しますよね」

 そして最後に、麻野さんからゲームクリエイター志望者にアドバイスを。ゲームデザイナーになるには、何が必要だろうか?

「何か武器を一つ持つことですかね。絵でも音楽でもストーリーでもプログラムでもいい。何か人より秀でたものがないと、説得力が出ないんですよね。ゲームデザイナーは、上流から下流に水を流すように、スタッフに仕事を振る立場。何か武器がないと、みんなになめられるんですよ。
 そこで、一つでも秀でた分野があれば、その分野の人はもちろん、それ以外の人からもリスペクトを受ける。こうなればやりやすい。逆に、単に全体の調整が上手いだけの人というのはキツいです。長年つきあって信用を得たあとならともかく、最初のうちはきついでしょう。
 僕の場合は、プログラムを少しでもやったことは、後々大きかったなあ。あと、「文系のセンス」。これはチュンソフトに入る時にさんざん中村光一さんに言ったんですが、“おたくは理系しかいないでしょ? 僕は文系だから文章が書けるし、芝居で企業から金をもらったほど演出力がある。今のゲームは理系だけでなんとかなってるるけど、そのうち状況は変わる。だから、今文系の人間を取っておけばお得”とアピールしました(笑)。入ってみたら、案の定、当時のチュンソフトは理系の人ばっかりでした。ちょっと難しい漢字は、もう読めない(笑)。弟切草のシナリオに“踵を返す”と書いたら、意味がわからないと言われました。もっと普通の表現をしろ、と(笑)。まぁ、今ではそんなこともないでしょうが、行きたい環境に不足していることを武器にするというのも、いい手だと思いますよ」

 では、麻野さんのように、フリーのゲームデザイナーになるには?

「最初は絶対に、どこかの会社に入ったほうがいいですね。なかには、竜騎士07さんのようにいきなりフリーで活躍される方もいますが、それは希有な例。よっぽど自信があるなら別ですけど、専門学校なり大学なりを出て、会社に入ったほうがいいです。
 会社の選び方も、よく学生に聞かれるんですけど……僕はあまり大規模じゃない会社を薦めますね。小さな会社だと、大作には関われませんが、自分が仕事をした場所がどこか、すぐに理解してもらえる。今の『ドラクエ』『FF』クラスになると、どこの絵を描いたか説明してもわかってもらえない。手っ取り早く、自分の表現を人に見せたいなら、小さなデベロッパーのほうがいいし、入りやすいでしょうからね」

 麻野さんは、現在、慶應大学で教鞭をとる立場にいる。他にも、専門学校で講義をしたり、就職セミナーで話をしたりと、若いクリエイター志望者と触れ合うことで、感じることも多いという。

「僕がゲーム業界に入った頃は、ほんとに有象無象でわけがわかりませんでした。ルートなんてない。そんな混沌としたところに入っていくには、それなりに勇気というか、無謀さが必要でした。でも、今は専門学校もあるし、リクルートから大手ゲーム会社の資料も届いてるんじゃないでしょうかね。そういう意味では、普通の業界になってしまったような気がしますね。
 だから、ホントをいうと、若い人にはわけのわからないゲームを作っていてほしい。『塊魂』(バンダイナムコゲームス)のような。賛否両論はありますが、サウンドノベルの形式を逆手にとった『ひぐらしのなく頃に』も、すごいなぁと素直に評価したいですね。僕は、『宇宙戦艦ヤマト』『機動戦士ガンダム』『新世紀エヴァンゲリオン』とともに、日本のサブカルに影響を与えた作品だと思っていますから。
 あと、ゲーム業界に入りたい若い人に、一つ言いたいことがあります。ゲーム業界で働くなら、特定の会社に入るんじゃなく、“株式会社ゲーム業界”に就職する気持ちでいてほしい。海外のことはわからないですが、日本の場合、個々の会社は人の入れ替わりが激しいので、実力さえあればどこにいても仕事はできる。最初にどの会社に就職するかということを気構えずにいればいいんじゃないかなぁと思います」

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2009年05月 鈴木達也氏
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