ずっしりとして、ぐにょぐにょぽろぽろ。液体でありながら金属である原子記号Hgすなわち水銀(マーキュリー)。銀色に鈍く輝く水銀のしずくをこぼさないように、ステージを傾けながら、ゴールまでじわりと導く。そんな不思議なゲーム『【Hg】ハイドリウム』に出会ったとき、僕はどことなく懐かしい気持ちに包まれた。
お盆の上に飛び散った水玉をこぼさぬように運ぶときのような気持ち。ラーメンに浮かぶ油をくっつけて、大きくしていくような密かな愉しみ。いやいや、それだけじゃない。しいていうならば、すごく昔のゲームセンターにあった『マーブルマッドネス』を思わせる。20年以上前のゲームなので知っている人は少ないだろうけど。細い迷路からすべり落ちないように、ゴールまでビー玉を転がしていく、あの感じだ。
あれから20年以上。ビー玉は溶けてどろどろとした水銀に代わった。固体から液体へ。玉から不定形へ。巨大なアーケードゲーム機から手のひらサイズのPSP®へ。時代の変化と技術の変化が、もたらしたノスタルジーと新しい触感。ゲームは「触れる映像」である、と言った人がいるけれど、まさしく『【Hg】ハイドリウム』は「新しい触れる映像」だ。
起動すると、いきなりメタリックな色のステージに投げ込まれる。「ここはどこだ?」と戸惑うけれど、やることはただひとつ。ステージを傾けて一滴の水銀をゴールへと導くだけ。ごくシンプルだ。シンプルだからといって簡単なわけじゃない。水銀は壁の突起に当たると、どろりとふたつに割れてしまう。また、ステージから落ちそうになると、ぽろぽろとこぼれていく。つまり、乱暴に水銀を操っていると、どんどんと量が減ってしまうのだ。うまく水銀をこぼさないように丁寧にステージを傾けていく、この微妙な感覚がなんとも歯がゆく、歯ごたえがあって楽しい。
もうひとつ面白いのは、色。ステージによっては、水銀に色をつけるレーザーがあり、そこに水銀が通ると、赤や黄色に染め上げられるのだ。ステージには特定の色でしか通れないゲートがあり、うまく色を変えつつゴールを目指すことになる。
最初はステージを傾けるだけでゴールにたどり着けるのだけど、クリアするたびにだんだんステージが複雑になっていく。ステージによっては、わざと水銀を分割して遠くのスイッチを押す必要があったり、分割した水銀に違う色をつけて、混ぜ合わせることで新しい色を作ったり、仕掛けも豊富。水銀をバクバクと食べてしまう謎の敵もいて、これまたスリル満点だ。
わかりやすいシンプルさと、驚きに満ちた奥深さ。これぞ傑作と呼ぶための必要十分条件だと思う。『【Hg】ハイドリウム』はその条件を見事に満たしているといえるだろう。
もはやPSP®のゲームではおなじみになっているが、『【Hg】ハイドリウム』はアドホック通信による対戦プレイに対応している。同じステージ上でゴールを目指して競争するというルールだが、ひとたび対戦になると、まったく違うゲームになっていく。ひとりでプレイするときは一滴もこぼさぬように丁寧に扱っていた水銀を、対戦になると乱暴にかき回しひたすらスピードを求めてゴールへとがむしゃらに流し込む。ただのパズルゲームだけじゃなく、しっかりとアクションとしてもうれしいばかりだ。
水銀をどこで分割させて、どこで色をつけて、どこで合体させるか。考える面白さと、うまくステージを傾けていくという、アクションのスリル。液体を傾けて、変形させていくという、物理の不思議。そんな「物理法則」を楽しむ玩具。『【Hg】ハイドリウム』は、まさしくPSP®の演算能力の高さが生んだ、新しい時代の遊びなのだ。
|