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風と緑と太陽のゲーム。『ぼくのなつやすみ3 -北国篇- 小さなボクの大草原』 Summer Holidays 20th Century

対談×綾部和  -スペシャル対談VOL.2 茂木健一郎×綾部和 脳科学者・茂木健一郎氏と綾部監督の対談で明らかになる『ぼくなつ癒し効果』

肌を焦がす陽射しの強さ、夏草の青い匂い――。嗅覚や触覚までをも刺激し、懐かしさと切なさ、心地よさを呼び起こす“ぼくなつ”シリーズ最新作『ぼくのなつやすみ3 -北国篇- 小さなボクの大草原』。脳科学者・茂木健一郎氏と綾部和監督の対談で、その癒し効果が明らかに。

茂木健一郎、『ぼくなつ3』で童心にかえる

「やった、“ぼくなつ”だ!」

 対談場所に現われた茂木健一郎さんは、目を輝かせてモニターに駆け寄った。
 実は茂木さん、初代からの『ぼくのなつやすみ』プレイヤー。お子さんも大の“ぼくなつ”好きという、親子2代にわたる熱心なファンなのだ。

 SLが煙を上げるオープニングムービーに歓声を上げ、虫取り網を振り回して喜ぶ姿は、まさに少年そのもの。
「捕まえられる虫は、実在のもの? 僕、チョウにはうるさいですよ?」
 と、ボクくん顔負けの笑顔で振り返る。

「PLAYSTATION®3だと、やっぱりキレイだね。ガラスへの映りこみも表現されてる」
「あ、コントローラの傾きも検知するんだ」
「草すべり、気持ちいいねえ!」

 夏休み序盤を体験し、すっかり童心にかえった茂木さん。
 興奮さめやらぬまま、綾部監督との対談の席についた。

ぼくなつ3を体験

少年時代の夏休みは、人生における幸福の理想形

綾部 かねがね茂木さんにうかがいたいことがあったんです。1作目の制作時から、『ぼくのなつやすみ』は脳を意識する瞬間が多いゲームだと思っていて。画面に表示される情報は限られたものなのに、小さいころのいろいろな出来事を思い出す。頭に陽射しが当たっている感覚さえ、呼び起こされるんです。それがなぜなのか、とても不思議なのですが。

茂木 自分がかつて経験した夏休みの記憶に結びついているからでしょうね。同じ屋根の下に人がいる気配、夕食の匂い……ゲームの中には織り込まれていないものまで感じられるんです。そこまで計算していたんですか?

綾部 狙ってはいましたが、ここまでうまくいくとは思っていませんでした。試作品を見て、自分でも驚きました。ゲームのおもしろいモチーフを見つけたというより、脳の中にある金脈、鉱脈を見つけた気がしたんです。こういうことで人間は気持ちよくなれるんだなって。

茂木 脳科学的に説明すると、実体験に基づいているので連想記憶が画面上のデータを補ってくれているんです。ゲーム世界で展開されているデータを脳内データが補って、リアリティが生じているのだと思います。

綾部 『ぼくのなつやすみ』をプレイすると、子供のころに心地よいと感じたことを反すうしているような気持ちになるんです。脳が気持ちよさを食べているような感覚があります。

茂木 少年少女時代って、人生における幸福のひとつの理想形だと思うんです。中でも夏休みは特別。あんなに開放感がある時間は、大人になるとなかなか持てません。理想の夏休みってもしかしたら誰も体験していないのかもしれない。でも、誰しも夏休みの幸福なイメージを持っていますよね。『ぼくのなつやすみ』をプレイすると、そのイメージが喚起されるのでしょう。

綾部 制作時にも、プレイヤーの情感を呼び起こすようなビジュアル、サウンドを意識しました。夕陽なんて見ているだけで懐かしいんですよね。これも昔の記憶に結びついているからでしょうか。

茂木 夢中で遊んでいて、気がついたら日が暮れそうになっていた……そんな思い出に結びついているんでしょうね。大人になっては体験できないことですから。さらに、ある特定の時間と場所など個別的な体験の記憶に結びついているのだと思います。あとは、人類の歴史にも関連しているのでしょうね。脳の中の回路には生命記憶があって、それが引き起こされる。文明が始まるまで、人類にとって夕陽は特別な意味を持っていたわけですから、そのときの思いが脳の中に残っている。それによって原始的な感情がかきたてられるのだと思います。

夕暮れ

ふだんとは違う体験が、癒し効果を生み出す

茂木 今回、苦労したのはどんな点でしょう。

綾部 新しいハードウェアで技術的に乗り越えなければならないハードルが高かったこと。そして、最先端のハードウェアでありながら、今までの『ぼくのなつやすみ』であること。このふたつを両立するのに苦労しました。今までにあった制約があるがゆえの味。その味を残したいと思いました。

茂木 新しい挑戦もいろいろとされていますね。特に、夜の部屋で聞こえるラジオがいい。

綾部 ありがとうございます。当時の記憶をたどると、テレビよりもラジオのほうが印象深いんです。AMラジオの全盛期でしたよね。まだテレビの深夜放送がなかったからでしょうか。

茂木 生活スタイルが違ったのかな。昔は友達や家族で集まって、外で涼む時間もありました。そういうときにはテレビではなく、ラジオが流れていましたから。音と映像は大きく違うもので、映像は集中して見る必要があるけれど、音は気配として感じられる。現在は、気配としての音が求められる生活スタイルではなくなったのでしょうね。

綾部 確かに昔は、夕方に子供が集まる空間がありました。みんなでたき火を囲むような機会も多かったですよね。

茂木 脳の仕組みから言うと、ふだん体験しないことをすると癒しにつながるんですよね。脳が全体性を回復するんです。『ぼくのなつやすみ』には現代の生活に欠けているものが詰まっているので、癒し効果があるのでしょう。僕だけでなく、僕の子供も『ぼくのなつやすみ』が大好き。昔同じような体験をした僕らの世代だけでなく、昭和を知らない子供にとっても“今できないこと”を体験できる。最高の癒しソフトだと思います。

夜の語らい

短すぎる北海道の夏――その寂寥感が通低する世界観

茂木 世界観はどうやって生み出されたのでしょうか。

綾部 私としてはごく一般的な夏のゲームをつくったつもりです。ただ北海道生まれなので、8月中旬をすぎると夏の終わりと秋の訪れを意識し始めるんです。その寂寥感が、自然とゲームに反映され、どこか切なさが漂う世界観になっているのだと思います。

茂木 なるほど! 今の話に感動しました。確かに北海道の夏は短いですもんね。

綾部 秋が近づく寂寥感と、昭和の夏のノスタルジーとの相乗効果が生まれたのでしょう。

茂木 北海道出身の綾部さんでないと作れないゲームだったんですね。私の場合、母親が小倉出身なのでよく九州に遊びに行っていました。九州の夏はあんなもんじゃない(笑)。8月の終わりになっても日は高いし、かぼちゃの花にチョウがとまっていますから。『ぼくのなつやすみ』って、日本全国どこでも体験できる夏の情景を描いたゲームだと思っていましたが、実はそうではなかった。北海道のあまりにも短い夏の寂しさが込められていたんですね。

綾部 キュッと胸がしめつけられるような切なさも、計算したものではありませんでした。完成してから気づいたんです。

茂木 今の生活は、季節感が失われていますよね。季節感、季節の移り変わりを感じること自体が贅沢なことになっているのかもしれません。本来は、季節と共に自然も変わるし人も変わる。それがゲームにもにじみ出ているのでしょうね。

綾部 そうかもしれません。

茂木 北海道時代、綾部さんはどんな少年でした?

綾部 外交的ではありませんでした。小さいころから絵を描くのが好きで。ですから、子供のころするべきだったことを今ゲームで追体験しているのかもしれません。だからこそ『ぼくのなつやすみ』がつくれたようにも思います。

茂木 自分が体験できなかった理想の少年時代を追体験しているんですね。まったく同じことを宮崎駿さんが言っていましたよ(笑)。

綾部 茂木さんの少年時代は?

茂木 僕は満喫していましたね。だからこういうゲームをつくれないんです(笑)。クリエイターは、何かが欠落していることがクリエーションの原動力になる。少年時代を思い出しながらつくったのではなく、十分遊べなかったという思いが綾部さんのクリエーションの原動力になっているんですね。

北海道の短い夏休み

『ぼくなつ3』にこめられたメッセージ

茂木 では、このゲームをどんな方に楽しんでほしいですか? 見どころは?

綾部 今回は北海道を舞台にしたため、前2作以上に私小説的になっています。とはいえ、全国の方々が自分の体験として楽しめるものにつくり変えたつもりなのですので、みなさんにプレイしていただきたいです。見どころは夏の夜でしょうか。独特の雰囲気はもちろん、8月に行なわれる北海道の七夕などさまざまな行事を楽しんでほしいです。

茂木 夏にプレイするにはもってこいのソフトですよね。

綾部 これまでも口コミで8月の終わりまで多くの方にご購入いただきました。今回もそうあってほしいと思っています。

茂木 PLAYSTATION®3を牽引するソフトになってほしいですね。PLAYSTATION®3の高度な描画能力があってこそ、気配まで表現できたのでしょうし。

綾部 過去の作品も、ゲームそのものは古くなっていないと思います。でも、見た目は新しいハードが出るたびに古くなってしまう。それをカバーするために、今回PLAYSTATION®3でつくりました。横長のハイビジョン画面が、北海道の雄大な景色にぴったり合うんですよね。北海道と言えば、今回のテーマのひとつとして北海道弁の“なんもさ”という言葉があるんです。“どういたしまして”“このくらいどうってことない”という意味で、英語なら“You're Welcome”“No Problem”といったニュアンスの言葉ですね。この言葉から、北海道を通じて昔の日本人が持っていた大らかさ、優しさを感じていただけるとうれしいです。

茂木 いろんなとらえ方ができますね。少年の夏休みを再現しただけのゲームではなく、いろいろなメッセージがこめられています。

綾部 茂木さんは、『ぼくのなつやすみ3』にどのような可能性を感じていただけていますか?

茂木 “ぼくなつ”のような時間の流れは、いちばん贅沢だと思います。忙しい気分のままプレイするゲームがあってもいい。でも“ぼくなつ”は癒しになるゲームですよね。ふだんの生活に欠けているなにかを体験できる、癒し効果のあるゲームだと思います。――といろいろ言っていますが、なにはともあれ早く続きをやりたい(笑)。もっと癒されたいです。

スペシャル対談VOL.1×高橋はるみ氏はこちら
プロフィール

茂木健一郎(もぎ・けんいちろう)

脳科学者。ソニーコンピュータサイエンス研究所シニアリサーチャー、東京工業大学大学院連携教授(脳科学、認知科学)、東京芸術大学非常勤講師(美術解剖学)。
「クオリア」(感覚の持つ質感)をキーワードとして脳と心の関係を研究するとともに、文芸評論、美術評論にも取り組んでいる。『脳と仮想』(新潮社)で第四回小林秀雄賞を受賞。2006年1月より、NHK『プロフェッショナル 仕事の流儀』キャスター。

綾部和(あやべ・かず)

『ぼくのなつやすみ3 -北国篇- 小さなボクの大草原』監督・ゲームデザイン・脚本。ミレニアムキッチン代表取締役。『ぼくのなつやすみ』シリーズのほか、PlayStation®2ソフト『ぼくらのかぞく』を制作。

対談を終えて

 今回は夕日の話や右脳、左脳の話など、まだまだ教えていただきたいことがたくさんあったので、なんともなごり惜しい対談となりましたが、いやほんと、楽しかった。

 僕は人間が赤い夕日を見て懐かしいと感じるのは、実は胎内の記憶なのではないかと思うのです。
ぼくなつはいろんなものにズルズルと回帰していくゲームなのです。

 それにしても茂木さんの研究室があるCSL(ソニーコンピュータサイエンス研究所)の巨大モニターで観た『ぼくのなつやすみ3』は本当に美しかった。自画自賛。
 45インチ以上のモニターで自分たちの作品を見たのはあの時が初めてだったのです。(綾部)

© 2007 Sony Computer Entertainment Inc.