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文:皆川千尋 氏
テラ・フォーマ観光ガイド(後編)

テラ・フォーマにも観光地として有名なスポットは存在する。
例えばそれは、ジュノーの塔を望める街として有名なウタル街や、エルフの富裕層が瀟洒(しょうしゃ)な邸宅を並べる離れ森だったりするだろう。
しかし今更、こんなメジャーな観光地を訪れるというのも芸のない話だ。 どうせならば他にふたつとない名所──自然の脅威が見せる奇蹟であったり、神の手を感じられる地であったり──を見てみたいと思わないだろうか?
そこで今回は、テラ・フォーマの中でも屈指の珍しい観光スポットを用意してみた。
どちらも訪れるには少々危険であったり、難儀する場所かもしれないが、世にふたつとない不可思議な観光地だ。
これを読んで興味を持ったあなたは、しっかりとした装備と信頼できる案内人を用意した上、訪れてもらいたいものである。 。

【共和制ヴァル・ナ・ヴァス】

ヴァル・ナ・ヴァス

ヴァル・ナ・ヴァスと言えば有名なのは、鍛冶と酒の2つだろう。
確かにこの国で作られる武器や防具は非常に優れたものが多い。
土産物屋で売られているペーパーナイフでさえ、心得のある者が使えばちょっとした猛獣ぐらいは倒せるぐらいと言えば、その優秀さもお分かり頂けるだろうか。
そしてもうひとつの名産品が酒だ。
ヴァル・ナ・ヴァスに暮らすドワーフ族はこよなく酒を愛し、鍛冶場で仕事をしている時と家で眠っている時以外は、酒場で杯を重ね続けている、と言っても過言ではないくらいだ。
そういった国民性からか、この国で流通しているのは総じて呆れるほどに強い酒ばかりである。
せっかく観光に来たというのに、二日酔いで宿のベッドから起き上がれないのでは話にならない。

そこで今回は、ヴァル・ナ・ヴァスの知る人ぞ知る穴場スポットをご紹介しよう。
それは国土の大半を占めるヴェルザール砂漠だ。
茫漠たる砂漠には緑もなく、動くものと言えば過酷な環境下に対応した小動物たちの長い尾と、大空を横切る鳥の影ばかり。
死の気配さえ漂うヴェルザール砂漠であるが、日没を迎えた頃から様相は一変する。
あたりは夕日の真紅に染め上げられ、黄金都市ヴィスヴァーヴァスも赤く染め上げられて蜃気楼の中で妖しくゆらめく。
そして太陽が地平線の彼方へ沈み、あたりが夜の帳に包まれてからが真の醍醐味なのである。
昼間は陽光で焼かれていた砂漠も、熱源を失い急速に冷えていくと──どこからともなく、硬質な、しかし透き通った不思議な音色が周囲から聞こえてくるのである。
時に遠く、時に近く、五月雨のように不規則で竪琴を爪弾くようなその音色を、ヴァル・ナ・ヴァスの国民たちはこう呼んでいる。
精霊の竪琴──と。
その正体は、砂漠に散在する岩だ。 昼間のうちに太陽の光で熱せられ膨張した岩は、日没で熱源を失うと急速に冷えて収縮していく。
これを何度も繰り返すうちに岩には歪みが生じ、亀裂が走り、時には砕け散ることもある。
その時の音が、精霊の竪琴の正体なのだ。
世界広しと言えども、天上の調べのようなこの音色を聞くことができるのは、ヴェルザール砂漠しかない。
いささか過酷な旅にはなるが、苦労する価値のある場所と言えるだろう。

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