
緑豊かなティル・ボルグ君主国の南の果て。
声海に面したところにひっそりと佇む街──最果ての街ロゴス。
地図の片隅に記されたこの地を訪れる酔狂な観光客は少なく、土地に根付いた者以外が街を歩くことは皆無に等しい。
地の果てに集まり、人々の記憶から忘れ去られたロゴスの街は、ひっそりと暮らす住人の心情を映したように、どこかノスタルジックな町並みをしている。
かつては商船が寄港した港も、使われなくなって今は久しい。
時折猫が昼寝をし、退屈そうな顔で空を滑るカモメを眺めているだけだ。
以前は賑わったであろう酒場も看板を降ろし、幾つもあった宿屋も軒並み廃業して、壮麗だった建物たちは潮風に吹かれ、朽ち果てる時だけをただ待ち続けている。
住人の平均年齢も驚くほど高く、このままではあと50年もしないうちに、ロゴスの街からは住人が絶え果てるだろう。
だが──ここ数年、そんなロゴスを訪れる人がじわじわと増えてきている。
若い男、老婦人、赤子を抱えた母親。
訪問者たちは年齢も祖国もバラバラだが、彼らにはひとつの共通点があった。
それは大事な誰かを亡くしているということ。
夫を、親友を、両親を亡くした彼らは沈鬱な顔で霧の濃いロゴスの街を訪れる。
そして唯一残った宿屋に部屋を取り、そこからさらに最果て岬を目指すのだ。
時は決まって夜明け前。
無銘の墓が並ぶ岬で、彼らは曙光の差し込む瞬間を待っている。
薄青い夜の帳が、登りくる朝日で払われた一瞬。
鏡のように凪いだ海面に浮かぶ影がある。
それは黄泉の国へ渡った死者の姿だ。
そう、いつの頃からか、最果て岬では死者と束の間の再会が果たせるという噂が流れるようになったのだ。
ただ遠くから姿を見るだけ。
だがそれでも、年に数人がこの街を訪れるということは──ただそれだけのことでも、救われる人がいるということなのかもしれない。
もしもあなたに再会を望む相手がいるのなら……この岬を訪れてみてはどうだろう?
過去を振り切り、新しい明日に向かって歩き出す勇気を与えてもらえるかもしれない。
※「テラ・フォーマ観光ガイド」前編は『こちら』